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東京高等裁判所 昭和45年(行コ)29号 判決

控訴人 米山松五郎

被控訴人 江戸川税務署長

訴訟代理人 青木康 外五名

主文

本件控訴を棄却する。

当審で追加した請求につき、

更正請求拒否処分の取消しを求める訴え及び昭和三九年六月二二日付更正処分の取消しを求める訴えは、いずれもこれを却下する。

控訴人のその余の請求を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し昭和三八年七月二九日付で原判決添付の別紙目録記載の建物についてした差押処分が無効であることを確認する。」、なお、当審で請求を追加し、「昭和三八年二月五日控訴人が申告した昭和三六年分贈与税五五五、七二〇円(のち五〇六、八〇〇円に減額された)につき控訴人が同年三月四日付でした更正請求拒否処分を取り消す。被控訴人に対し当該請求更正に係る贈与税五〇六、八〇〇円の申告はなかつたものとする。控訴人が昭和三六年度分贈与税の申告税額五五五、七二〇円についてした昭和三八年二月五日付更正請求に対し、被控訴人が昭和三九年六月二二日行つた左記更正処分を取り消す。取得資産の価額金一、九六四、五六〇円、基礎控除額二〇〇、〇〇〇円、課税価額一、七六四、五六〇円、算出贈与税額五〇五、八〇〇円。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴指定代理人は、控訴棄却ならびに当審で追加した訴えをいずれも却下するとの判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

被控訴指定代理人は控訴人の訴えの変更の申立につき、次のとおり述べた。

行政事件訴訟においては、民事訴訟法第二三二条の規定の例による訴えの変更は許されず、行政事件訴訟法第一九条第一項の規定による請求の追加的併合の手続によるべきものと解すべきところ、同項の規定によれば、抗告訴訟に追加して併合することの許される訴えは、関連請求(同法第一三条)に係る訴えにかぎられるところ、控訴人の当審における追加的請求は、本件請求と関連関係にあるとは解せられないから、右請求はいずれも不適法である。

仮りに行政事件訴訟においても民事訴訟法第二三二条の規定による訴えの変更が許されるとしても、更正処分取消しの訴えの追加的変更は、著るしく訴訟手続を遅滞せしめるものであるから許されず、仮りに許されるとしても、控訴人は右処分につき国税通則法上要求される行政不服審査手続を経ておらず、また、右処分は贈与税の申告税額の一部を減額更正する処分であつて、控訴人に不利益を与えるものではないから、その取消しを訴求する利益はないから、右訴えは不適法として却下さるべきである。

理由

一、本件控訴について

当裁判所は、本訴請求を失当として排斥すべきものと認めるが、その理由は、原判決理由中の説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

二、当審での追加的請求について

行政事件訴訟法第一九条第一項は関連請求の追加的併合の手続を定めているが、行政事件訴訟においてもこれとは別に民事訴訟法第二三二条の規定の例による訴えの変更によることを禁ぜられているものではない。行政事件訴訟法第一九条第二項は右のように解すべきであつて、この点に関する被控訴人の主張は理由のないものといわねばならない。

(一)  更正請求却下処分取消請求について

訴えの変更による新訴の提起が訴訟係属中になされる場合にも、当然出訴期間の規定の適用があるから、新訴についてはその取消しの請求の対象となつている行政処分についての出訴期間内になされなければならない。ところで控訴人の取消しを求める昭和三八年四月二六日付更正請求拒否処分がその頃控訴人に通知されたことは控訴人の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべきである。従つて本件控訴状(昭和四五年四月七日に提出されたことは記録上明らかである。)による訴えの変更により提起された前記新訴は、出訴期間を経過した不適法な訴えであり、却下を免れない。

(二)  贈与税申告をなかつたものとするとの請求について

控訴人は、この請求について何ら釈明するところがないが、控訴人が被控訴人に対してなした昭和三六年分贈与税申告(税額五五五、七二〇円、後に五〇六、八〇〇円に減額更正された。)の無効確認を求める趣旨と解するほかはない。そうだとするならば、右申告が無効でないことは、差押処分無効確認の請求についてすでに説示したとおりであつて、控訴人の請求は理由がない。

(三)  更正処分取消し請求について

右訴えの追加的変更は、訴訟手続を著るしく遅滞させるものとは認められないから、許さるべきであるが、控訴人は右処分の取消請求について国税通則法上要求される行政不服審査手続を経たことを認めるに足る証拠はなく、また、右処分は控訴人の昭和三八年二月五日付贈与税申告の額の一部を減額する処分であつて、控訴人に何ら不利益を与えるものではないから、その取消しを訴求する利益はなく、右訴えは、いずれの点よりするも不適法として却下さるべきである。

三、よつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、控訴人の当審で追加した請求について、更正請求拒否処分取消しの訴え及び更正処分取消しの訴えは不適法としてこれを却下し、その余の請求は、失当として棄却することとし、当審での訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 田畑常彦 小林定人)

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